第1148回・なかむらや旅館

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なかむらや旅館は、東北を代表する温泉のひとつである福島市の飯坂温泉にある温泉旅館である。歴史を感じさせる土蔵造の建物が特徴で、江戸時代に建てられた本館と明治時代に建てられた新館及び土蔵と、二つの時代の建物が併存している。国登録有形文化財。

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福島市飯坂町字湯沢、飯坂温泉の中心街からは少し離れた落ち着いた街並みの一角に建っているなかむらや旅館。福島県内ではよく見られる赤瓦の屋根を載せた土蔵造の重厚な佇まいはよく目立つ。写真手前の建物が江戸時代末期に建てられた本館と土蔵で、左奥が明治中期に建てられた新館。

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本館は元禄年間にこの地で創業した花菱屋(のち花水館、平成19年廃業)によって幕末に建てられたものを、明治23年(1890)に現所有者の祖先が購入したという。

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明治29年(1896)には現所有者の祖先によって新館が増築された。東日本大震災後に改修工事が行われているが、外観、内装ともに古い造りをよく残している。

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新館に隣接する趣のある酒屋の店舗。建物も看板も重厚で歴史を感じさせるが、残念ながら既に営業はしていない様子。

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洋風意匠を取り入れたショウウインドウがある。

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なかむらや旅館の斜め向かいに建つほりえや旅館。同じ木造三階建であるが、黒ずんだ板壁の外観を持つほりえやは白壁土蔵造のなかむらやとは対照的である。 

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「江戸館」と呼ばれている本館。2階が客室として使われている。暖簾が下がる右端の入口が玄関。

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玄関を入ると、かつて帳場として使われていたと思われる囲炉裏を切った場所がある。

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玄関先にある箱階段の床板は擦り減っており、歴史を感じさせる。

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江戸館2階の廊下。

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客室は規模や造りにそれぞれの時代の特色が現れている。写真は江戸館の客室で、簡素な床の間を備えた小さな座敷である。

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江戸館と明治館の境目に設けられた階段室と手洗室。明治期の増築で建てられた部分である。

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手洗室には、各個室の天井に明治期の硝子絵が嵌め込まれている。

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明治期の部分に入ると、江戸館とは異なり造作に趣向を凝らした賑やかな空間が広がる。東日本大震災後の改修工事に際しては、震災で解体を余儀なくされた福島県内の古民家の部材が再利用されているという。

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新館の施工を手掛けたのは地元飯坂町の大工で、近年国の重要文化財に指定された伊達市保原町の旧亀岡家住宅も手掛けた小笠原国太郎で、洋風意匠の階段などに共通性が見られる。

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明治館の2階客室。続き間になった広い座敷で、随所に意匠を凝らし床柱などに珍しい材木を用いる。

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3階客室。基本的な構成や床の間まわりの造りは概ね同じだが、床柱が異なる。

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3階客室の次の間。こちらも床の間を備えた座敷となっている。

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3階縁側から階段を望む。

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縁側にも洋風意匠の手摺を設ける。

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明治館の客室は湯治に来る長期滞在客のためなのか、書院窓の下に錠前の付いた抽斗を設けている。貴重品の保管庫か、箪笥として使えるように造ったものと思われる。 

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同様の工夫は次の間の床脇にも見られ、地袋の下に錠前付の抽斗を設ける。
余り他の旅館建築では見かけない、珍しい工夫である。

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2階客室の床板には、象嵌細工と思われる亀の模様が見られる。これは先述の旧亀岡家住宅でも見られるもので、施工者である小笠原国太郎によるものと思われる。

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書院窓の障子には、江戸時代以前には無い擦り硝子が用いられている。材料や意匠に趣向を凝らした造りや、新材料・洋風意匠の採用など、近代和風建築の特色を備えている。

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なかむらや旅館は客室数も少なく小規模であるが、家庭的な雰囲気の快適な宿である。
なお、日帰り入浴での利用も可能である。

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なかむらや旅館のすぐ近所にある木造の共同浴場「鯖湖湯」は、飯坂温泉のシンボル。現在の建物は平成5年(1993)に改築されたものだが、外観、内装共に明治期に建てられた旧建物の趣を残している。

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夜のなかむらや旅館全景。
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第1143回・白河ハリストス聖教会

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福島県白河市愛宕町にある白河ハリストス正教会は、大正4年(1915)に建てられ、近代に建てられたハリストス教会として現存するものでは全国で5番目に古い洋風建築である。福島県指定重要文化財。

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ハリストス正教会はギリシャ正教の教会で、白河には明治11年(1878)に教会が設けられ、同15年(1882)に最初の会堂を建立したと伝えられる。

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現在の聖堂は、大正3年(1914)に着工、翌年の大正4年(1915)に竣工した。

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明治15年に建てられた旧会堂は現在も敷地の一角に残っており、司祭の宿泊、集会所として使用されているという。(日本正教会のホームページより)写真奥に写っている和風の建物がそれと思われる。

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聖堂の設計者は、建築家であると同時に聖職者でもあり、当時白河ハリストス正教会の副輔祭であった河村伊蔵(1866~1940)による。施工は地元白河の大工棟梁であった中村新太郎で、費用は白河の信徒の積立や拠出によって賄われた。

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河村伊蔵は白河のほか、函館(大正5年竣工)と豊橋(大正2年竣工)のハリストス正教会聖堂の設計も手掛けており、ともに国の重要文化財に指定されている。

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明治から大正期に建てられたハリストス正教会の聖堂は白河、函館、豊橋のほか、東京(ニコライ堂)、京都、石巻にも現存する。宗教施設としての役割を終えた石巻を除き、いずれも現役の聖堂として使用されている。

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最も古いのが明治13年(1880)に建てられた宮城県石巻の旧聖堂で、東日本大震災による津波で大きな被害を受けたが流失は免れ、現在は移築復元に向けて準備が進められている。

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白河ハリストス正教会はこれらの聖堂の中では5番目に古い建物である。

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タマネギ状の尖塔を持つ屋根など、ギリシャ正教会系の教会に見られるビザンチン様式で建てられた教会である。

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換気口の金物飾り。

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平成5年(1993)に、聖堂と堂内の聖像(イコン)が福島県の重要文化財に指定されている。

第1139回・旧屋形医院(矢吹町大正ロマンの館)

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福島県西白河郡矢吹町本町にある旧屋形医院は、大正9年(1920)頃に建てられた木造洋風建築である。玄関ポーチから二階バルコニー周囲に施された精緻な漆喰装飾が特徴的であったが、東日本大震災で大きな被害を受けた。一時は解体も検討されたというが地元の熱意で平成28年(2016)に「大正ロマンの館」として甦った。

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旧奥州街道沿いに建つ「大正ロマンの館」。1階が食事も提供しているカフェ、2階は地元の子供たちのための学習スペースと貸会議室となっており、従業員にその旨を伝えれば建物の見学もできる。

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館内に飾られている創建当初の古写真。柱頭飾りの付いた円柱とアーチで飾られた重厚な玄関ポーチが特徴で、平成23年の東日本大震災までは、ほぼ創建当初の姿を残していた。(こちらのブログが震災前の姿を紹介されている)

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震災で玄関ポーチは崩壊、建物本体も大きく損傷したため解体も検討されたが、地元では長年親しまれてきたことから存続を望む声が上がり再生された。再建された玄関ポーチは簡素なものとなったが、2階正面の切妻まわりの漆喰装飾は旧いままで残されている。

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この洋館を建てた屋形貞医師は福島県浜通り(太平洋に面した東部)の相馬の出身で、仙台医学専門学校(現在の東北大学医学部)で医学を学び、勤務医を経て矢吹町にて医院を開業した。

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屋形医師は現金で診療費の払えない患者からは代わりにかんぷら(ジャガイモを指す福島方言)を受け取っていたことから「かんぷら医師」と呼ばれ親しまれ、医院の建物も町の晴れの場として使用されることもあったという。

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大戦末期の昭和20年(1945)1月に屋形医師が61歳で死去した後、建物は2代の医師によって昭和40年代の終わり頃まで使われていたが、その後は「大正ロマンの館」として再生されるまで長らく空家となっていた。(参考 大正ロマンの館 Facebook

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内部は改装されているが、扉やかつての受付の窓など、古い建具類が再利用されている。

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部屋毎に意匠の異なる天井はもとの造りをそのまま残している。

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かつてこの館で使われていた古い戸棚などの家具類にも、再利用されているものがある。

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階段室。

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階段の手摺。

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二階の旧院長室は現在学習室として開放されている。室内のテーブルは町内の中高生による手作り。

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旧院長室の天井中央部には見事な漆喰細工の龍がいる。

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百年近く使われ続け、これからも使われてゆく扉。

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玄関ポーチ上部のバルコニーに出られる硝子戸。
左の扉は学習室で、この反対側に現在は貸会議室となっている部屋がある。

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バルコニーから2階正面切妻の漆喰装飾を見る。

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この建物の魅力のひとつは、内外に施された精緻な漆喰装飾。
玄関ポーチが失われたのが惜しい。

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現在は基壇の石だけが往年の面影を残している。

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長年に亘って多くの人に親しまれ、震災からも甦った幸せな建物である。

第1138回・南会津町田島の石蔵風洋館

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前回紹介した旧南会津郡役所の近くに、戦前のものと思われる石蔵風の洋館がある。この建物については情報が少なく詳細は不詳であるが、南会津町田島(旧田島町)における文化的価値が高いと思われる建物のひとつなので紹介させて頂く。

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この洋館は旧南会津郡役所から徒歩で数分程度の距離に建っている。旧田島町は江戸時代には日光街道(下野街道、会津西街道等の呼び名もある)の宿場町として繁栄していたことから、かつての街道である国道121号線沿いにはこの洋館を始め古い建物が点在している。

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道路に面して石蔵があり、後ろに石蔵風の洋館、そしてその背後には木造和風の二階家が建っている。

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左右対称で正面上部には半円形の妻壁を立ち上げ、玄関には堂々とした玄関ポーチを張り出した立派な造りの洋館である。

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街路に面して建つ石蔵。

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南会津町は栃木県に比較的近い位置にあるためか、洋館と石蔵は大谷石を積み上げて造られている。

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窓周りや玄関ポーチは御影石など異なる種類の石を用いている。玄関扉も創建当初からのものと思われる重厚な木製扉である。

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背後の和風建築が居住棟で、正面の洋館は迎賓用の空間、または事務所として建てられたものと思われる。玄関扉などの建具も凝ったものになっていることから、中の造りも気になる建物である。

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石蔵にも洋風の玄関ポーチが備わっている。

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栃木県内では宇都宮市西郊の大谷(おおや)町を中心によく見られる大谷石の石蔵であるが、福島県内ではこのような立派な大谷石の石蔵はあまり見られないのではないだろうか。

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個人的には旧南会津郡役所にも劣らない貴重な建物だと思う。
ぜひ町の文化財として今後も保存して欲しい。

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旧街道沿いには他にも魅力的な古い建物が残されている。
洋館とは目と鼻の先にある國権酒造。明治10年(1877)創業の老舗で福島県有数の蔵元である。

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街路に面して建つ3階建の蔵には、上部の窓を洋風のアーチ窓とする。

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國権酒造の前を過ぎたすぐ先には、唐破風の玄関が印象的な和泉屋旅館がある。現在も昭和9年(1934)創業当時の建物で旅館を営んでおり、建物は国の登録有形文化財となっている。

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内部は立派な造りの書院座敷の他、外観からは想像できないが敗戦後占領軍の指定旅館となった際に造られた洋室があり、現在も客室や会議室としてそのまま使用されている。ぜひ泊まって内部も見てみたい宿である。

第1137回・旧南会津郡役所

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これまで当ブログでは、県令(知事)として明治初期の山形、福島両県に洋風建築の導入を積極的に進めた三島通庸の福島県令在任中に建設され現存する3件の郡役所庁舎のうち、旧桑折郡役所旧西白河郡役所の2件を紹介してきた。今回は残る旧南会津郡役所庁舎である。福島県指定重要文化財。

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福島県南会津郡南会津町田島字丸山甲にある旧南会津郡役所。現在は館内を有料で一般公開している。

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敷地内には現在、福島県の南会津合同庁舎が建っているが、かつてはここに旧南会津郡役所庁舎が建っていた。保存に際し曳家で現在地に移設されたものである。写真は旧南会津郡役所の2階バルコニーから望む南会津合同庁舎。

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正面全景。3件の中では最も遅く、明治18年(1885)に建てられた。当時県内で新築、改築された郡役所庁舎の中では北会津郡役所に次いで大きな規模であったという。なお、北会津郡役所があった地には現在、先日紹介した会津若松市庁舎が建っている。

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当初の計画では桑折郡役所と同様に正面中央に塔を載せる計画であったが実現していない。細部は異なるものの、全体的な形はよく似ている。

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竣工当初の姿を写した古写真。竣工当初の外壁は現在のような下見板張りではなく、漆喰壁であった。なお、以下に紹介するものも含め、古写真は全て館内にて展示されている解説パネルなどのものである。

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大正3年(1914)に大規模な改修が行われ、現在の姿になった。大正15年(1926)に郡役所制が廃止されるが、建物はその後も県庁の地方事務所として昭和45年(1970)まで使用されていた。

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現役の事務所として使われていた頃の古写真。坂道を上った突き当りに正門があり、その先に建っていた。現在この場所には先述の南会津合同庁舎が建っている。

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田島合同庁舎が建設されることになり、取り壊される予定であったが保存運動が実を結び、昭和46年(1971)に敷地内での曳家移設が行われた。同年には福島県の重要文化財に指定されている。

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上から見ると中庭を持つロの字型の平面となっており、正面側のみ総二階建てで、側面と背面は平屋建てとなっている。側面から見ると旧桑折郡役所よりも規模が大きいことが分かる。

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平屋建ての部分は上半分が漆喰壁となっており、創建当初の形を残している。

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正面側の窓のみ、緩やかなアーチ窓となっている。

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玄関ポーチ及び二階バルコニーの柱に取り付けられた柱頭飾りは、千成瓢箪を思わせる奇妙なものとなっている。

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西白河、桑折の郡役所と同様、正面玄関及び二階バルコニーのアーチには色ガラスが嵌め込まれている。

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この庁舎では側面の両側にそれぞれ「官吏入口」「人民入口」が設けられており、一般職員と住民のための入口となっていた。正面玄関は特別の来客や郡長など身分の高い者だけが利用できたようである。

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中庭。

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背面側の中央に配された旧郡長室。置かれた古い洋家具や調度、実際に郡長が使用していた大礼服が重厚な雰囲気を醸し出している。

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旧桑折郡役所にも設けられていたが、側面側の一方には宿直の職員のために和室が設けられている。

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二階へ上がる階段は非常に急な上に段差が大きく、当時の人の身長ではかなり昇り降りが大変だったのではないかと思われる。

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二階は一室のみで、大会議室となっている。

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階段手摺の欄干。

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移設後は奥会津地方歴史民俗資料館(現・奥会津博物館)として利用されてきたが、同館の移転により現在は「旧南会津郡役所」として一般公開されており、建物の来歴や当地の歴史資料などについて展示が行われている。
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現存する近代日本の歴史的遺産(台湾など旧日本領土も含む)を建造物・土木構造物を中心に、思いつくままに取り上げております。

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