第1076回・川奈ホテル田舎家

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以前弊ブログにて紹介した静岡県伊東市川奈の川奈ホテルは、スパニッシュ風外観に英国風のインテリアを備えた純洋風のリゾートホテルであるが、昭和11年(1936)の開業に際して同時に設けられた和風の離れ家がある。江戸時代の古民家を移築改装したもので、本館と共に国の登録有形文化財である。

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昭和11年(1936)竣工の川奈ホテル本館。写真左側がサンパーラー、右側が大食堂(地階にはグリル)のある棟。設計は国指定重要文化財の日本橋高島屋旧前田侯爵邸の設計で知られる高橋貞太郎による。川奈ホテル本館についての詳細は弊ブログ記事を御参照頂きたい。(本記事投稿に合わせて内容を全面的に更新した)

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田舎家は大食堂から少し離れた木立の中に建っている。御殿場にあった江戸時代中期の建築と伝わる木造平屋建て、茅葺屋根の古民家を、数寄屋建築を得意とした建築家で茶人でもあった仰木魯堂(1863~1941)の手によって移築改造したものである。

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同じ御殿場の古民家を昭和初期に移築改修したものとして、これも以前弊ブログにて紹介した旧秩父宮御殿場御別邸(旧井上準之助別荘)がある。同じ地域の建物であるためか、屋根の形状等に類似性が見られる。

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開業当初はここで外国人客にすき焼きのサービスを行ったりしていたようだが、現在でも予約制の食事処としてすき焼きや天ぷら等の和食を供している。

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屋内は土間と座敷で構成されている。
間取りは移築に際し改造されているが、天井の梁や柱の配置などは古い形を残しているとされる。

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土間の天井。

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片隅に設けられたかまど。

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床には木煉瓦を敷き詰めている。

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土間は椅子式の客席となっており、カウンターと囲炉裏の2種類の席が用意されている。

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畳敷きの座敷席。奥には床の間付きの座敷もある。

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当時、富裕層の間では古民家を移築改造して離れや茶室、別荘として用いるのがちょっとした流行となっており、川奈ホテル田舎家もその延長にあるものと考えられる。

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弊ブログで以前紹介した古民家を利用した近代の別荘や茶室の例として、上述の秩父宮御別邸や強羅の白雲洞茶苑、軽井沢の三五荘などがある。

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また、ホテル開業に際しては外国人観光客を主たる利用者として想定したであろうことを考えると、日本情緒を醸し出すこの手の施設は必須でもあったと考えられる。

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本館の重厚な英国風の大広間や談話室、モダンなサンパーラーなどとはまた異なる趣を有する田舎家は、川奈ホテルの建築的魅力に一層の厚みと深みを加える存在となっている。
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第1066回・旧エンバーソン住宅

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静岡市駿河区池田にある旧エンバーソン住宅は、明治37年(1904)に宣教師館として現在の静岡市葵区西草深に建てられた。静岡市内に現存する数少ない明治時代の西洋館である。静岡市指定有形文化財。

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現在は静岡市立日本平動物園に隣接した地に移築されており、動物園には入園せずに見学できる(駐車場はないため日本平動物園の有料駐車場を利用)が、案内等が少なく分かりにくいのが難点である。

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カナダからキリスト教伝道のため日本に派遣された宣教師であるロバート・エンバーソン師の自邸として建てられた。

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エンバーソン師の帰国後も、代々の宣教師や牧師の住まいとして80年以上にわたってその役目を果たしてきた。

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しかし老朽化が進み、所有者であった日本基督教団静岡教会によって新たな施設の建設のため、一時は解体されることになっていた。

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昭和61年(1986)、教会から建物の寄贈を受けた静岡市によって移築保存が図られることになった。翌昭和62年(1987)に現在地への移築工事が完了、同年より一般公開され、現在に至っている。

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国の登録有形文化財を経て、平成21年(2009)に静岡市指定有形文化財となっている。

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移築前の昭和33年(1958)に附属の厨房及び和室が撤去されている。写真中央は今はない厨房につながっていた配膳口。したがってこの部屋は元々は食堂として使われていたと思われる。

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上記、一部分の撤去と改修が行われた点を除くと、明治期の洋風住宅の造りをよく残している。

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アーチ型の欄間とその下に立てこまれた和風の引き戸という和洋の取り合わせが珍しい。

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木製の便座が置かれた便所は創建当初の形式を復元している。

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玄関ホールを兼ねた階段室。

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二階から望む階段。
付きあたりの扉は玄関ポーチ上部のバルコニーに出られるようになっている。

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静岡市の中心部は昭和15年(1940)の大火で大半が焼失し、その後間もなく戦災にも遭ったことで、昭和初期以前の古い建造物は県庁所在地にも関わらず、静岡市庁舎静岡県庁舎静岡銀行本店などを一部を除き、現存するものは多くない。

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旧エンバーソン住宅は、静岡市内に現存する数少ない明治時代の西洋館であると同時に、静岡県内に残る唯一の外国人宣教師住宅でもある。

第939回・安田屋旅館

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静岡県沼津市内浦三津にある安田屋旅館は、太宰治が代表作のひとつ「斜陽」を執筆するため滞在していたことで知られる。大正から昭和初年に建てられたという、太宰が滞在していた当時の建物で現在も営業を続けている。国登録有形文化財。

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全景。手前の平屋建が玄関棟、奥の二階家が客室棟。明治20年(1887)に漁村の旅籠として創業した安田屋は、大正7年(1918)現在の三津浜に移転、観光旅館として装いを新たにした。

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3つの瓦屋根が雁行型に連なる外観が特徴の客室棟全景。
大正7年(1918)から昭和6年(1931)にかけて建てられた客室棟が国登録有形文化財。

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3つの瓦屋根のうち、玄関側の2棟(写真左側)が大正7年に建てられた「松棟」、一番奥(写真右側)が昭和6年に建てられた「月棟」

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三津浜は駿河湾越しに富士山も見える穏やかな景勝の地であるが、移転当時は淋しい場所であったとされ、地元民からは狐が出ると恐れられていたという。

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松棟の廊下。

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太宰治は昭和22年(1947)、安田屋旅館に滞在して「斜陽」を執筆した。
松棟の二階(月見草の間)に滞在していたという。

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太宰治も昇り降りしたと思われる、松棟の螺旋階段。

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月棟の階段。

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松棟の一階、月見草の間の真下に当たる客室。

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凝った意匠の床の間。

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ヒョウタンを二つに割ったような形の飾り窓。

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広縁。
天気が良ければ、駿河湾の先に富士山が見える筈なのだが。

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外から見た松棟。
階上が月見草の間。

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静岡県内で太宰治ゆかりの旅館としては、安田屋のほか、熱海市の「起雲閣」(現在旅館は廃業、熱海市が所有・公開)がある。

第933回・旧小松宮彰仁親王御別邸(楽寿館)

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静岡県三島市にある市営公園「楽寿園」内に建っている楽寿館は、明治24年(1891)に小松宮彰仁親王(1846~1903)の御別邸として建てられた。京風の高床式数寄屋造りの建物で、内部は明治時代を代表する日本画家たちによる襖絵・杉板戸絵・天井画等で飾られており、一般公開されている。三島市指定文化財。

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楽寿園は三島市の中心街、JR三島駅から徒歩ですぐの距離にある。

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楽寿館の玄関。
内部見学は1日に6回、所定の時間に係員が案内する見学ツアーの形で行われている。 →(参考)

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残念ながら内部の写真撮影は禁止されているため、当記事にて紹介できるのは外観のみ。

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富士山麓の伏流水が湧き上がることでできている小浜(こはま)池。
かつては常に豊富に水が湛えられていたが、昭和30年代以降枯れることが多くなり、この写真の水位でも多い方である。

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小松宮彰仁親王が明治36年に薨去したのち、明治44年に李王家の李垠殿下(1897~1970)の別邸となる。写真の建物は李王家別邸となってから増築された部分。

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同じく、李王家による増築部分。外観は和風だが、内部は和洋折衷の部屋となっており、バーカウンターを備えた撞球室があった。現在も往時の造りを残しているものの、敗戦後の米軍接収時にペンキを塗りたくられた痕跡が痛々しい。

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現在は分割されているが、かつては楽寿館と渡り廊下で繋がれていた「梅御殿」

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「梅御殿」は現在、楽寿園の施設として使われている。

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池に臨む楽寿館と異なり、岩山の上に建つような趣の「梅御殿」

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昭和初期に李王家の手も離れ、個人所有を経て戦後の昭和27年(1952)に三島市の所有となり、現在の楽寿園が開園、現在に至る。

第926回・旧松城家住宅

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静岡県沼津市戸田にある旧松城家住宅は、江戸後期から主に廻船業を営んでいた松城家の居宅として明治6年(1873)に建てられた擬洋風の住宅建築。国指定重要文化財。

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戸田(へだ)は西伊豆の良港として知られる。戸田港に近い屋敷はかつて水路で戸田港と結ばれていた。現在、水路は埋め立てられている。

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伊豆石の塀越しに見る姿は、石造の洋館風。

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玄関まわりは普通の古民家といった佇まい。

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廻船業を営んでいた松城家は江戸の深川に出店を持っていた。
玄関先に置かれた鋳物の手水鉢は船で江戸から運ばれてきたもの。

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玄関天井のランプ台座に施された漆喰鏝絵。伊豆で活躍した左官の入江長八とその一門の手になる漆喰鏝絵が建物の随所に施されており、建物の大きな見どころになっている。

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玄関脇にはアーチ状の伊豆石の門があり、くぐると特別な来客を通す時のみ使われていた本玄関が現れる。

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式台を備えた本玄関。

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洋風を意識した造りは主に二階に施されている。

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2階ベランダ。かつては金属製の手摺が設けられていた。
円柱などは洋館風に造ろうしたものと思われる。

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側面に3つ並ぶ窓は、右端のみが本物で、残り2つは漆喰細工の偽物。

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窓のようで、実はただの壁。

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現在は沼津市が所有、月に2回(第1、第3日曜日)無料で一般公開が行われている。
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