第1128回・多度津の合田邸(その3)と周囲の町並み

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去る9月23~24日に第3回目の一般公開が行われた香川県仲多度郡多度津町の合田邸。弊ブログでは丁度1年前の平成28年11月3日に初めて公開された際に訪れ、2回に分けて紹介させて頂いたが、今回は新たに公開された場所を中心に、また周囲の町並みも併せて(その3)として紹介させて頂く次第である。

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多度津は古くより瀬戸内の港町として栄え、明治以降は四国で初の鉄道が走った地として知られる。合田邸は近代化の牽引役であった「多度津七福神」と称された富豪の中で、現在も唯一邸宅が残されている。詳細は過去の記事もご参照頂きたい。 → 多度津の合田邸(その1) (その2)

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邸宅は明治から昭和初年にかけて、四国経済界の要職を歴任し貴族院議員も務めた合田房太郎と合田健吉の親子2代にわたって造営が行われ、昭和9年(1934)には現在の邸宅の全容が整ったとされる。現在、敷地内には13棟の建物が残る。

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中庭から望む、明治期に建てられた主屋と大正末~昭和初年に建てられた迎賓用の洋館。9月23日の一般公開では主屋内にある洋風のダイニングルームが初めて公開された。

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主屋の奥には洋館と中庭を挟んで、二階建の離れがある。明治末期に建てられ、二代目である合田健吉の好みで二階座敷には書院まわりにエジプト風の装飾が施されていた建物である。合田邸内でも最も老朽が著しい洋館はまだ内部を公開できる状況ではなかったが、離れは2回目の一般公開より、室内が公開されるようになった。

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離れでは多度津高等学校写真部による作品展示が行われていた。写真は一階座敷。

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離れの座敷は一階が「銀の間」、二階が「金の間」と呼ばれていた。
その由来となったのがそれぞれの座敷の次の間の襖で、一階には銀箔が貼られている。

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意匠を凝らした一階次の間の飾り窓。離れの障子は紙がボロボロになっていたため、公開に際し全て洗い落されている。これらの公開に向けた様々な活動は合田家御当主及び合田邸ファンクラブ、多度津高等学校写真部などの方々の努力による。

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「えじぷとの間」とも呼ばれていた二階座敷は、その由来となった書院の欄間飾りと建具は共に残念ながら失われていたが、建物自体は現在もしっかり建っている感じであった。天井の意匠が珍しい。

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「金の間」とも呼ばれていた二階の次の間は、金箔ではなく金の緞子らしきものが貼られている。

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離れの二階縁側は広く取られサンルーム風に造られている。座敷と同様に天井は異なる種類の材木を組み合わせた格天井で、保護のため大部分がビニールシートで覆われているが、床は寄木張り仕上げになっている。ダイヤ模様の欄間や手摺の意匠も珍しい。

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一階の縁側は幅は通常の日本家屋と変わらないが、天井や欄間に意匠を凝らしている。天井の棹はすべて面取りが施されており芸が細かい。

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離れ二階縁側からは合田邸内の建物がひととおり見渡せる。
昭和9年(1934)の竣工で、邸内では最も新しい大広間「楽々荘」は、今回の一般公開では人形浄瑠璃やマンドリン演奏などのイベント会場として使われていた。

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主屋内にあり、洋館内の部屋とは続き間になっているダイニングルームが初めて公開された。主屋自体は明治期の建物であるが、大正末~昭和初年の洋館建設に合わせて改装されたものと思われるアールデコ調の装飾が施された部屋である。

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隣接する台所とはステンドグラスが嵌め込まれた間仕切りで仕切られており、配膳用の上げ下げ窓が設けられている。

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天井は船底天井になっており、照明器具からテーブル、椅子等の家具に至るまでよく保存されている。

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台所とダイニングルームを仕切るアールデコ調のステンドグラスは比較的シンプルな意匠。

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ステンドグラスには色硝子だけではなく、各種の型押し硝子が用いられている。

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ダイニングルームの先は洋館に続いており、木製の硝子戸で仕切られた隣室は談話室(非公開)で、かつてはバーカウンターや壁面に設えられた噴泉、ステンドグラスで飾られた天井があったとされるが、現在はそれらの装飾の殆どは取り外されたのか、覗き込んでも存在は確認できなかった。

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ダイニングルームと談話室との仕切りに嵌め込まれたステンドグラスは、よりカラフルで派手なアールデコ意匠となっている。

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洋館の談話室の先は半地階付の広間となっており、上階が暖炉を備えたホール、下階が宿泊用のベッドルームとなっている。談話室から下階へ通じる入口には、アールデコの意匠が施された格子戸が嵌め込まれていた。

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大広間「楽々荘」では、洋館の上階ホールを飾っていたステンドグラスを再現したパネルが展示されていた。

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ステンドグラスが嵌め込まれていたと思われる洋館ホールの窓は現在アクリル板で塞がれており、現物の存否は分からない。

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今回僅かに覗き見ることができた洋館の内部は、正直なところかなり痛々しいものであったが、往年の姿を取り戻せばさぞ見事なものとなるに違いない。

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洋館を含め、是非とも全ての建物の復活への思いを強くした今回の訪問であった。


(合田邸周囲の町並み)

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合田邸がある多度津町本通り商店街には古い町家が多く残されており、周囲の町並みも合田邸共々、後世に残して頂きたいものである。写真はそれらの一部の建物である。

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洋風のベランダを備えた二階建長屋。

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町家はいずれも京都や大阪でもみられる虫籠(むしご)窓を備えている。

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ナマコ壁の町家。

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元銭湯の建物。
多度津町には他にも洋館建の旧楽天堂病院や山本医院もある。合田邸とこれらの建物が多度津町の町興しに寄与することを祈る。
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第1121回・水尾写真館

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香川県善通寺市上吉田町にある水尾写真館は、明治34年(1901)創業の歴史を有する老舗の写真館で、大正年間に建てられた木造二階建ての洋館で営業を続けている。国登録有形文化財。

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善通寺駅前通りに面して建つ水尾写真館。前回紹介した旧陸軍第十一師団のすぐ近くにある。

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水尾写真館の創業は第十一師団設置から間もない明治34年であるが、住居を兼ねた現在の建物が完成したのは大正末期とされる。

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二階中央の開口部は床の高さまで開いているが、かつてはバルコニーが設けられていたものと思われる。

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歴史を感じさせる看板と門燈。

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善通寺市のホームページによると、館内は洋風の階段やカメラの絞りをデザインした天井飾りなど、写真館ならではの装飾も施されているという。

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二階正面上部に立ち上がる妻壁は、「水尾」の文字を浮き彫りにした看板となっている。

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現在もこの建物で写真館として営業を続けている。

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なお、水尾写真館と道路を隔てて向かい合う位置にある四国学院大学は、旧兵舎など旧陸軍第十一師団の施設の一部を引き継いでおり、水尾写真館と同様、国の登録有形文化財となっている。

第1120回・乃木館(旧陸軍第十一師団司令部庁舎)

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香川県善通寺市の陸上自衛隊善通寺駐屯地の一角に、かつてこの地にあった旧帝国陸軍第十一師団の司令部庁舎が残されている。現在は陸上自衛隊善通寺駐屯地資料館として公開されており、その近くには現在も陸上自衛隊の施設として使用されている煉瓦倉庫もある。

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旧帝国陸軍第十一師団は、日清戦争後に新設された6個師団の一つで明治31年(1898)に設置され、四国4県を徴兵区としていた。

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正面全景。第十一師団と同時に設置された、石川県金沢市の旧第九師団司令部庁舎とほぼ同一意匠で建てられた。初代師団長は乃木希典(在任期間 明治31~34年)であったため「乃木館」の通称でも知られる。

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張り出した玄関ポーチは後年の増築であるが、それ以外は旧状を保っている。なお、金沢の旧第九師団司令部庁舎は現在は規模を縮小した状態で保存されているが、国立近代美術館工芸館として再利用されることに伴い、往年の規模に復元される予定である。

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旧陸軍関係のほか、陸上自衛隊の資料も展示されており、善通寺駐屯地の広報施設としての役割も担っている。また敷地内には使われなくなった戦車や戦闘機などの装備品も展示されている。

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外壁などに老朽が目立っており、早急な修復が望まれる。

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玄関ポーチは大正~昭和初期頃の増築と思われる。創建当初は金沢の旧第九師団司令部庁舎と同様、玄関ポーチは存在しなかった。

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玄関内部。

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玄関を入るとすぐ正面に階段が現れる。玄関ホールと階段室は装飾を施した柱で区切られており、簡素ながらも威厳を感じさせる。

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1階は陸上自衛隊音楽隊の練習室などに使われており非公開となっているので、資料館のある2階へ上がる。

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華麗な明治の洋風建築の趣を残す階段踊り場。

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階段室のアーチ窓。

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旧師団長室。机と椅子は歴代師団長が実際執務に用いていたもの。2つある椅子のうち、簡素な方の椅子は乃木希典が用いていた。

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旧師団長室の天井の四隅には漆喰装飾が施されている。

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戦後は郵政省簡易保険局に使用された後、昭和36年(1961)に陸上自衛隊の所管となった。平成18年(2006)より、2階部分を資料館として一般に公開している。

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既に国指定重要文化財として修復、活用されている旧善通寺偕行社と同様、将来は文化財として保存、修復されることを望む。

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乃木館から道路を隔てて、煉瓦倉庫が3棟建っている。

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兵器庫として明治42年(1909)から大正10年(1921)にかけて建てられた。

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現在も陸上自衛隊善通寺駐屯地倉庫として現役で使用されている。

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このような大規模な煉瓦倉庫は横浜や舞鶴を始め全国各地に現存するが、現役で使用中のものは非常に少ない。

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先述の金沢や、同じく陸軍の第十師団が置かれていた姫路にも同種の煉瓦倉庫があり、それぞれ博物館美術館に転用されている。

第1116回・堀家時計店

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香川県丸亀市西平山町にある堀家時計店は、木造二階建て、モルタル塗で石造風に仕上げたファサードを持つ看板建築である。もとは医院で、細部に施された精緻な装飾が美しい洋風建築である。国登録有形文化財。

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JR丸亀駅の北東、北口から歩いてすぐの位置に建っている。

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昭和初期の創建とされるが、丸亀市の西隣にある多度津町に同時期に建てられた山本医院と似た正面外観を持つ。

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洋館風に造られているのは正面外壁だけで、建物本体は木造瓦葺の和風建築である。(先述の多度津町の山本医院の斜め向かいに建つ旧楽天堂病院と同じようなタイプの建物である)

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石造風に仕上げられた正面外壁には、モルタル(もしくは人造石)によると思われる精緻な装飾が施されている。

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大正期の洋館の細部装飾に多く見られる、バラの花の意匠。

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所有者が大切に手入れをされているためだと思われるが、各装飾の保存状態は非常によい。

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正面アーチの上部には微かに右書きで「・・・院」の文字が見え、かつては医院であったことがわかる。

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正面玄関の開口部には、柱頭飾りを持つ円柱で支えられた扁平アーチが載る。

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玄関脇の腰壁には登録有形文化財のプレートが埋め込まれている。
これからも何とか保存して頂きたい。

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東京都心や関東近郊に多い「看板建築」であるが、西日本では少し珍しい。

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街中にひっそりと建つ名建築である。

第1059回・淡翁荘(旧鎌田勝太郎邸)

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前回記事で紹介した、香川県坂出市の旧鎌田醤油本店に隣接して建っている淡翁荘は、元社長・鎌田勝太郎の邸宅として昭和11年(1936)に建てられた洋館。「淡翁荘」の名は鎌田勝太郎の号に因む。現在は「四谷シモン人形館 淡翁荘」として公開されている。国登録有形文化財。

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淡翁荘は旧鎌田醤油本店に隣接して建っており、本通り商店街に面し黒門と称する薬医門形式の正門と、瓦を載せた鉄筋コンクリート造の塀を構える。この門と塀も国の登録有形文化財となっている。

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背面(庭園側)から望む淡翁荘。鉄筋コンクリート造二階建、設計施工は合資会社清水組(現・清水建設㈱)大阪支店による。陸屋根で外壁の一部はタイル張り、箱型のシンプルな形状の洋館である。

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以前は木造の和風住居もあったとのことだが、改修に際し撤去されている。なお、当該建物が現存する洋館部分とどのように接続されていたのかは不明である。

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改修に際し平屋建の管理スペースと、写真の見学者用玄関が新たに設けられており、入館はこちらから入る。

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淡翁荘は現在、人形作家で俳優の四谷シモンの作品を展示する施設として利用されている。一階ホールに置かれている老人像は、昭和45年(1970)に開催された大阪万国博覧会のために製作された「ルネ・マグリットの男」。

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1階応接室。モダニズム風の無装飾の外観とは裏腹に、内部は本格的な洋室と和室で構成されている。

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鎌田醤油の現社長が四谷シモン氏の熱心なファンであったため、この施設が誕生したとのことである。東京生まれの氏と坂出の地に特段の縁があった訳ではない。

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1階は応接室と、次の間・縁側付きの座敷、金庫室などで構成されている。

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座敷は格式高い書院造でまとめられている。

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縁側から臨む座敷。次の間の先に玄関の引き戸が見える。
元々の玄関はこちらと思われる。

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金庫室の扉。

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現在は展示スペースの一部となっている金庫室内部。
内部にも金庫がある。

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1階ホールから階段を望む。

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2階階段室。階段まわりは外観と同様、無装飾のモダニズムスタイルとなっている。

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2階トイレ。仕切りは大理石が用いられている。
ここも展示スペースの一部。

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トイレの窓から隣の旧鎌田醤油本店を望む。商店街側からは見えない、反りのある入母屋造の屋根が見える。手前の張り出した部分は淡翁荘1階の応接間部分で、上は2階のバルコニーとなっている。

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外観からは想像できない重厚華麗な造りの洋室。2階は全て洋室で、うち続き間になっている写真の部屋は共に暖炉を備えている。写真奥の天井は僅かに曲面を持つヴォールト天井となっている。

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主室と思われる広い方の洋室にある暖炉。

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暖炉の向かい側に配された棚。

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続き間の洋室の暖炉上に掲げられている肖像の人物が、この館の主であった淡翁・鎌田勝太郎(1864~1942)。香川県の有力実業家であると共に、政治家としては貴族院議員を30年近く務め、貴族院の重鎮として君臨した。

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また社会事業家として、私財を投じ鎌田共済会を設立、育英事業や図書館、博物館(鎌田共済会郷土博物館)などの運営を行い、教育文化の発展にも寄与した。

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続き間の暖炉に貼られた、複雑な色ムラがあるタイルは、同じ清水組の施工による大阪の綿業會館(昭和6年竣工、設計は渡辺節)の談話室壁面に貼られている泰山タイルと色合いが似ており、淡翁荘の暖炉タイルも泰山タイルの一種かも知れない。

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淡翁荘の照明器具。

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香川県内に現存する洋風住宅としては、淡翁荘は多度津町の合田邸洋館などと並ぶ質の高いもののひとつと思われる。
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現存する近代日本の歴史的遺産(台湾など旧日本領土も含む)を建造物・土木構造物を中心に、思いつくままに取り上げております。

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