第1165回・ベルギー王国大使館別荘

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かつて国際的な避暑地として繁栄した日光の中禅寺湖には湖畔に面して、明治から昭和初期にかけて建てられた欧州4ヶ国(イギリス、フランス、イタリア、ベルギー)の大使館別荘が建ち並ぶ。今も現役で使用されているのはフランスとベルギーのみであるが、昭和3年(1928)に建てられたベルギー王国大使館別荘が、平成30年6月のうち日を限って特別公開されている。

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大使館別荘群は中禅寺湖の東岸にあり、イギリスとイタリア、フランスとベルギーがそれぞれ隣り合って建っている。写真の建物は大正11年(1922)に建てられたとされるフランス大使館別荘。和風を基調とした簡素な建物である。

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フランス大使館別荘に隣接して建っているのが今回紹介するベルギー大使館別荘。湖岸を走る道路とは高いブロック塀で隔てられており、通常は道路側からは屋根しか見ることができない。

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イギリスイタリア両国の大使館別荘は既に現役を退き、共に文化財として一般に公開されているが、フランスとベルギーは現役で通常非公開である。湖畔に面した姿も普段は湖上からしかその姿を見ることは出来ない。

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ベルギー王国大使館別荘は、昭和3年(1928)、大倉財閥の二代目総帥である大倉喜七郎(1882~1963)男爵が建設、ベルギー王国大使館の夏季別荘として当時のベルギー国王、アルベール1世(1875~1943)に献上したとされる洋館である。

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イギリス、フランス、イタリアの3ヶ国の大使館別荘がいずれも和風を取り入れているのに対し、ベルギー王国大使館別荘は内外装ともに純洋風で仕上げられているのが特徴である。

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4棟の大使館別荘の中では同じ昭和3年に建設された旧イタリア大使館別荘と並び、最も新しい時期の建物であるが、今年で建設から90年を迎える。

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ペンキ塗り下見板張りの外壁にハーフチンバー風の意匠を施し、湖畔に面した側にはベランダやサンルームを配した、変化に富んでいる外観が特徴である。

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二階窓の下はハーフチンバー風の洋館に多く見られる、木材を交差させた意匠とするが、通常より柱が1本多く湖畔側の二階ベランダ手摺と対応したものとなっているなど、意匠も凝ったものとなっている。

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二階の鎧戸には、星と三日月の形にくりぬいた装飾が施されている。

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別荘建設90周年を記念し、ベルギー王国大使館の協力による栃木県の事業として初の一般公開が行われた。

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玄関欄間の飾り窓。

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玄関まわりの内装は、細い格子の天井も壁の柱や長押も茶色く塗られ、重厚に仕上げられている。

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後年の改装かも知れないが、玄関より先は階段ホールも各部屋も明るい色調で仕上げられている。

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階段。2階は非公開。
今回の一般公開では、来客を迎えるための公的スペースである1階サロンとテラス、サンルームが公開されていた。

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階段の手摺子は算盤の玉を並べたような意匠となっている。

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1階にはサロンとして使われている2つの洋室があり、うち1室は石積みの暖炉を備えている。また、湖岸に面したテラスに出ることもできるように造られていた。

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暖炉のそばには配膳用と思われる小さな窓があった。

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湖岸の石を積み上げたものと思われる、素朴な石積みの暖炉。

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淡い黄色の色硝子を嵌め込んだ硝子戸。

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2室あるサロンは硝子戸で仕切られており、続き間として使えるようになっている。

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湖畔に面したテラス。
入口脇には石で出来た造り付けのプランターボックスがある。

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テラスから望む、雨に霞む中禅寺湖。

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比較的小さな規模の方のサロンは、家具の配置からして食堂として使われているようだ。

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湖岸に面した西側には、吹きさらしのテラスと大きな窓を配したサンルームが設けられている。

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外観、内装共に非常に質の高い洋館であるが、設計者は不明のようである。

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高橋貞太郎(川奈ホテルの設計者として建て主の大倉喜七郎男爵とは関係が深い)
木子七郎(別荘竣工とほぼ同時期に、ベルギーから贈られた小便小僧像を大阪の自邸に置いている)
J・M・ガーディナー(オランダなど各国大公使館の施設を多く手掛け、日光の教会に遺骨を埋めるなど当地との縁が深い)

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(全くの個人的見解であるが)関連のありそうな建築家として上記に記すような人物を考えてみたが、この洋館と結びつけられるようなものを見出すことはできなかった。

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今後予定されている特別公開日は、6月16~18日、23~25日の6日間である。
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第1054回・舘野家住宅

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国の重要伝統的建造物群保存地区の一部である栃木県栃木市泉町にある舘野家住宅は、幕末より肥料・履物を扱っていた商家である。昭和7年(1932)に建てられた和洋折衷の外観を有する写真の店舗棟と、その背後にある主屋及び蔵3棟が国の登録有形文化財となっている。

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舘野家住宅がある泉町は、「栃木市嘉右衛門町伝統的建造物群保存地区」の一部であり、以前紹介した岡田記念館翁島別邸も同地区内にある。

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背後に続く主屋と土蔵、味噌蔵、鼻緒蔵が平成16年(2004)にそれぞれ国の登録有形文化財となっている。店舗棟と主屋は昭和7年、蔵3棟は明治時代中~後期の竣工とされる。

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旧例幣使街道に面して建つ店舗棟は、洋風の外観とする。但し内部は土間と12畳の帳場から構成される伝統的な商家の造りとなっている。

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店舗棟の1階正面右手には、元々はショーウインドウがあったと思われる。

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2階中央にはベランダを設ける。
外壁の列柱やベランダの手摺などは石造風に仕上げているが、木造である。

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2階の南側(正面向かって左側)のみ洋室を設け、それ以外は全て和室になっているという。

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2階正面ベランダの奥には和風の硝子戸が建てこまれている。建具は摺り硝子と透明硝子の組み合わせで、意匠も凝っている。

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伝統的な造りをベースにしながらも、洋風意匠を取り入れた近代の商家の事例として興味深い建物である。

第1032回・岡田記念館翁島別邸

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栃木県栃木市小平町にある岡田記念館翁島別邸は、江戸時代初期から続く当地の旧家である岡田家の隠居所として、大正13年(1924)に建てられた。銘木を多用した上質の近代和風建築である。国登録有形文化財。

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国の重要伝統的建造物保存地区に指定されている栃木市嘉右衛門町にある岡田記念館。翁島別邸とは目と鼻の先にある岡田家の本宅で、記念館として一般公開されている。

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本宅とは異なり、緑に囲まれひっそりとした印象の翁島別邸の門。
「翁島」という名称は、敷地が川に挟まれた島状になっており、隠居した当主の住まいであったことからこの名が付いたという。

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岡田家は古くは武士であったが、帰農して江戸時代初めに当地に移住、荒地を開墾しながら地域の発展に尽くし、現在で26代目という旧家である。なお、当主は代々、当地の地名にもなっている「嘉右衛門」という名を襲名している。

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翁島別邸は22代嘉右衛門が自らの隠居所として建てた。派手さは無いが、良質の材料を用いて入念に造られた質の高い近代和風建築である。戸袋は装飾を施した銅版張り、屋根瓦も特注品であるという。

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内部も随所に良質の材木が惜しげもなく使われている。

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一階玄関脇の座敷。
翁島別邸は岡田記念館と共にドラマのロケなどによく使われているとのこと。

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座敷の床の間と書院窓。床柱は極めて貴重とされる黒柿。

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一階の縁側。大きなケヤキの一枚板が使われている。

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一階の茶の間。
造りつけの戸棚には、奥に隠し引き出しを設けるなど、収納した貴重品を守るための工夫が施されているという。

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一階客間も、床の間周りに黒檀、紫檀、鉄刀木(タガヤサン)を用いた銘木尽くし。

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手洗いには巨大な石の手水鉢が置かれている。

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洗面所と浴室。

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二階座敷の床の間。
床柱は吉野杉の絞り丸太で床板はモミジ、天井は薩摩杉を用いた、館内でも特に贅沢な造りと思われる部屋。

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二階座敷から外を望む。
翁島別邸は大正13年竣工の主屋と、昭和初期に建てられた土蔵が国登録有形文化財となっている。

第987回・旧英国大使館別荘

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平成28年(2016)7月1日に開園した、中禅寺湖のほとりにある英国大使館別荘記念公園では、明治29年に建てられた旧英国大使館別荘が公開されている。この建物は元々は、幕末から明治にかけて外交官として活動、駐日公使などを務めたアーネスト・サトウの別荘として建てられた。

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日光は明治から昭和戦前にかけて、国際的な避暑地として繁栄した。中禅寺湖のほとりには現在も、明治から昭和初期に建てられた4か国(英、伊、仏、ベルギー)の大使館別荘が並んでおり、フランスとベルギーは現役で使われている。

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現役を退いたイタリアと英国の大使館別荘は、共に栃木県が取得、建物を保存整備の上、中禅寺湖の風光を満喫できる公園として開放されている。なお、英国よりも先に公開されている旧イタリア大使館別荘については当ブログでは既に紹介済なので、本記事と併せて御覧頂きたい。

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文久2年(1862)、イギリスの駐日公使館の通訳生として来日したアーネスト・サトウ(1843~1929)は、その後明治後期にかけてイギリス公使館の通訳、駐日公使などを務め通算25年間にわたり日本に滞在した。

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滞在中、中禅寺湖の風光に魅せられたサトウは明治29年(1896)に別荘を建てた。サトウが日本を離れた後は、英国大使館の別荘として平成20年(2008)まで使用されていた。

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中禅寺湖では明治から昭和戦前にかけて、夏季には外国人達によるヨットレースが開かれ、賑わった。

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3段重ねの石垣は、サトウが同じ英国人で、当ブログでも何度か紹介している建築家のジョサイア・コンドル(1852~1920)に相談して造らせたもの。別荘はその上に建っており、室内からの眺望は非常によい。

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日本人の大工によって建てられた別荘は、外観は和風だが内部は暖炉を備えた洋室になっている。

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白ペンキで塗られた内装と黒塗りの外観は、戦後間もない頃の改装によるもので明治期からのものではないが、修復に際しては色調はそのまま残された。

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1階広縁から望む中禅寺湖の眺め。

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歪んだガラス戸は明治期からのもの。

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暖炉のある1階の旧書斎。暖炉は旧書斎と旧食堂の2箇所に設置されている。

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暖炉棚や金物飾りは、明治29年の創建当初からのものと考えられている。

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2階広縁。床板の殆どが新材に交換されているため、余り古さは感じられない。

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2階からの中禅寺湖。周囲の自然は創建当時と大きく変わっていない。

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旧イタリア大使館別荘とともに、国際的な避暑地として繁栄した往時の日光界隈を偲ぶには格好の建物である。

第972回・旧関根家住宅

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栃木県栃木市倭町にある旧関根家住宅は、明治から昭和初期まで煙草卸売商を営んでいた関根家の店舗兼住居。通りに面した店舗棟は大正11年(1922)に建て替えられた煉瓦タイル貼りの洋風建築。背後に続く主屋、文庫蔵と共に国の登録有形文化財となっている。

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栃木は江戸時代より例幣使街道の宿場町として、また船運による問屋町としても繁栄していた。現在も中心街の大通りの両側には、重厚な造りの見世蔵(店舗棟)や土蔵が残されており、街の観光資源となっている。

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明治以降、店舗棟を洋風に改築する商家も現れた。旧関根家住宅もそのひとつで、背面に建つ明治中期竣工の主屋江戸時代の文庫蔵はいずれも伝統的な造りとなっている。

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正面外壁は、左右対称に縦長窓や装飾等が整然と配された端正な外観となっており、パラペット(軒)部分などには大正期の洋風建築に多いセセッション風意匠が見られる。

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玄関の両脇に配された窓もショーウインドウ風の大きな窓になっており、当時としては極めてハイカラな外観であったものと思われる。

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玄関部分の外壁は緩やかな曲面を有している。

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外壁に貼られた茶褐色のタイルは、明治以来の赤煉瓦に代わってより新しさを感じさせる外装材として、当時流行していた。

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玄関上部の照明も古いものが残されている。

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店舗棟の脇にひっそりと設けられた通用口の上部にある照明も、古いものが残されている。

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煙草商としての営業は昭和初期に終え、その後は貸店舗やギャラリーに使われていた。

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平成28年5月、関根家から店舗棟、主屋、文庫蔵及び敷地が栃木市に寄贈された。
栃木市では今後、旧関根家住宅を「蔵の街」の観光資源として活用していくものと思われる。

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旧関根家住宅の近くに建つ旧安達呉服店(好古壱番館)も、店舗棟を洋風に改築した商家のひとつで、大正12年(1923)の竣工。

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旧関根家住宅と同様、国の登録有形文化財となっている。
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