第1075回・石井酒造

埼玉県幸手市南2丁目にある石井酒造(株)は、江戸時代末期創業の歴史をもつ蔵元。店舗の裏手には、関東地方に多く見られる出桁造の伝統的な造りの商家にタイル貼りの洋館を敷設した居宅が残されている。

スーパーとゴルフ練習場に囲まれて建っている、石井酒造の店舗及び酒蔵と居宅。店舗と酒蔵は新しくなっているが、昭和初期のものと思われる居宅は古い佇まいを残している。

埼玉県では以前当ブログで紹介した、秩父の秩父菊水酒造や廃業した旧近藤酒造など、大消費地である江戸に近く街道が発達していた地の利を活かし、多くの酒蔵が存在していた。

そのため、埼玉を「東灘(あずまなだ)」と称することもあったという。石井酒造も埼玉における古い酒蔵のひとつで、幕末に当たる天保11年(1840)の創業である。

梁または腕木を突出して側柱面より外に桁を出した構造の出桁造(だしげたづくり)は、重厚な外観が特徴で関東地方の古い商家に多く見られる。

かつてはこの建物が店舗として使われていたものと思われるが、現在は前方に建てられた新しい建物が販売所となっているようである。(隣接するスーパーでも売っている)

石井酒造のように伝統的な造りの商家に洋館を併置する事例は珍しい。

洋館の屋根は、同じ埼玉県下の深谷市に保存されている同時期の建造物である「清風亭」と同様、深みのある青緑色を持ったスペイン瓦で葺かれている。色ムラの多い屋根瓦は創建当初からのものと思われる。

いくつかの異なる種類のタイルを用いて外壁に変化を与えている。このようにタイルで模様を描くのは玄関ホールの床面など室内装飾では多く見られるが、外壁の仕上げとして用いられるのは少し珍しいと思われる。

主屋との境目に来客用と思われる玄関を配し、洋館の背後には接客用の書院座敷と思われる二階建ての日本家屋が連なっている。

屋根は切妻から軒先、軒裏までが銅版で覆われた贅沢な造りである。

酒も建物もぜひ後世に引き継いで頂きたいものである。
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