第192回・旧田中徳兵衛邸

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埼玉県川口市、国道122号線沿いに茶褐色の煉瓦で外壁を装ったちょっと珍しい外観の洋館が建っている。江戸時代より当地で農業を営み、明治以降は麦味噌の醸造と材木を商って産を成した田中家の当主だった四代目田中徳兵衛(1875~1947)が大正12年(1923)に建設した邸宅である。現在は川口市によって「旧田中家住宅」として公開されている。

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戦前に描かれた田中家全体鳥瞰図。現在も残る邸宅の周囲に味噌醸造施設、道路を隔てた向かい側に材木置き場があり、邸宅は今も当時のまま残るが、味噌蔵はその後取り払われ日本庭園と茶室に変わっている。なお田中家は現在味噌醸造は行っていない(材木業は戦前に既に止めた)が、味噌卸売専門の㈱田中徳兵衛商店として現在も盛業中。

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木造と煉瓦造の混構造3階建て(蔵部分は4階建て)、向かって右手には厨房・使用人部屋のある附属棟がある。
田中家の住居であると同時に帳場を備えた事務所であり、賓客を迎える迎賓館としての機能も持っていた。

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事務所ビルにも見えるあまり住宅らしくない外観。左側が蔵。
設計は桜井忍夫。旧日本郵船小樽支店などで知られる建築家・佐立七次郎の下で長年実務を担っていた人物で、自らの事務所を開業した時期に田中邸を手掛けた。施工には田中家出入りの地元川口の職人が多く携わっていたことが棟札から判明している。

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外壁の煉瓦は焼き過ぎ煉瓦と呼ばれる焦げ茶色の煉瓦。当邸建設のため田中家が直営で焼いたものだという。
なお銅板張りの手摺に隠れているが屋根は日本瓦葺である。

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鋳鉄製の門と門扉、柵。

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洋館正面見上げ。アルミサッシの窓は後年入れたもので奥には当初からの木製上げ下げ窓が残る。つい近年まで田中家の住居として使われていたが非常に旧状をよく残している。「TANAKA」と刻まれた白大理石の板がはめこまれているが、洋館は事務所も兼ねていたので表札と言うよりは看板と言える。いずれにせよ珍しい造りの家である。

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その看板の真下にある玄関。四枚引きの硝子戸で、仕舞屋(普通の家)の玄関ではなく商家の玄関である。

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玄関を入ると畳敷きの上がり框がある。ここで洋から和に変わる。

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神棚を備えた帳場。洋館の玄関先とは思えない。

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帳場の奥にある茶の間。ここが田中家の普段の生活の場だったらしい。

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玄関左手に行くと帳場や茶の間とは全く趣が変わり純洋風の応接間が現れる。この部屋は右手奥に写っているとおりもう一つの玄関につながっている。

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重厚な格天井と、精緻な漆喰細工を施した照明台座とを組み合わせた応接間天井。

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応接間につながるもう一つの玄関。狭いが床から天井まで丁寧な造り。

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同上、ステンドグラスの小窓アップ。

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外から見た応接間専用玄関。田中家の家族用玄関と解説されていたが家族用にしては造りが立派過ぎると思った。
後年は実際そのような使い方をしていたのかも知れないが、当初は貴賓用の特別な玄関として造ったではないかと思う。

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専用の門もある。

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重厚な階段室。

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二階書斎。

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書斎には小さなバルコニーがある。

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書斎の隣は日本座敷。

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3階階段室。洋風の階段と伝統的な蔵の入口の取り合わせが妙。全体的に何とも不思議な和洋折衷で統一された館である。

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3階蔵前の斜め前にある洋室。隣の広間の控室として造られた部屋。応接間や書斎と異なり白を基調とした明るい感じの洋室。

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3階広間。創建当初はこの部屋からの眺望が自慢だったようだ。

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広間飾り柱の柱頭飾り。

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洋館裏手には昭和9年増築、一部二階建の日本家屋がある。この頃四代目田中徳兵衛は多額納税議員として貴族院議員に就任、来客も多くそのための増築と思われる。なお子息の五代目田中徳兵衛は戦後川口市長に選出され、一期務めている。

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一階座敷。隣の中の間、仏間と合わせて三間続きの大広間にもできる。

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二階座敷。次の間があるだけのこじんまりした座敷なので、来客を泊めたりするために使ったのではないかと思う。

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附属棟。二階部分はかつて使用人部屋だった。

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邸宅を公共施設として保存・活用することを望んでいた六代目田中徳兵衛氏(故人)の意向もあり、川口市が買い取り公開、現在に至る。なお、洋館・門・塀・文庫蔵は国登録有形文化財に選定されている。
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No title

祖母のご近所お友達にこの家出身のおばあさんがいました。
幼い頃数回お会いしていて上品できれいなおばあちゃんだなと感じていましたが、
以前この家見学して子供の頃リアルお姫様だったんかと納得した次第です。

Re: No title

貴重なお話ありがとうございます。
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