第295回・旧野口喜一郎邸(和光荘)

戦前の北海道に建てられた豪邸の中では、間違いなく代表格のひとつと言えるのが、小樽にある和光荘。大正11年(1922)、日本酒「北の誉」醸造元・野口家の本邸として建てられた。

和光荘が建っているのは小樽市潮見台。市街地と港を見下ろす高台である。路地を進むと緑に囲まれた一郭があり、さらに進むと橋がある。

緑の奥に見える和風建築を横目に見つつ橋を渡って進むと、視界が開けてこの洋館が現れる。

全景。設計は施主である野口家二代目・野口喜一郎が原案を作り、建築家の佐立忠雄が実施設計を行ったと伝わる。佐立忠雄は、小樽を代表する近代洋風建築のひとつ・旧日本郵船小樽支店の設計者である佐立七次郎の子息。

側面に少し覗く和風部分。当初緑越しに見えた部分である。
正面は洋館の造りになっているが、全体としては和光荘は和風が中心となっている邸宅である。

蔵と思われる付属棟。

円形の池を持つ前庭が広がっている。和光荘は前庭までの立ち入りは自由である。但し建物内部と日本庭園は非公開で立ち入り不可。

和光荘は傾斜地に建っており、1階に見える部分は地階である。重厚な石貼りの地階と軽快な1階ベランダの組み合わせがすばらしい。

2階部分は灰色のモルタル壁、最上層である屋根の切妻部分は白いシングル貼りになっており、各層毎に異なる仕上げの外壁になっている。

藤森照信・増田彰久著「歴史遺産日本の洋館大正編第四巻・大正編Ⅱ」に載せられている室内の写真と間取り図によると、地階には大小食堂、喫煙室等があり、1階が玄関及び応接間を除いて全て和室になっている。

半地階テラス。硝子戸の奥は大食堂。

半地階テラス内側。

前庭からは見えないが、建物の後方には渡り廊下で繋がれた仏間棟がある。野口喜一郎は父で初代社長の吉次郎共々、熱心な仏教徒で仏間の規模は個人住宅とは思えないほど大規模で立派なものである。他、昭和5~6年に増築された新館がある。ステンドグラスや噴水で飾られた大きな円形のサンルームが特徴である。

地階喫煙室の窓。

2階は手前の張り出した部分が洋室になっている他は、全て和室。野口家は元々金沢がゆかりの地であることから、和光荘内の和室の壁は、朱色などの鮮やかな色彩を持つ加賀風に仕上げられている。

2階外壁の裾が少し反り返る形になるようモルタルを塗っている。

前回の夕張鹿鳴館同様、昭和29年の天皇皇后両陛下による北海道巡幸に際しては、和光荘は小樽における両陛下の宿所となった。

玄関に続く階段。

玄関先から見える小樽市街。

玄関横の一階テラス。

玄関。

一階テラスから前庭を望む。

テラスに面した窓の内側には、軽快な外観からは想像できない重厚な造りの応接間がある。

壁面に取り付けられた照明。象が鼻先に灯具を吊り下げた形をしたユニークなもの。象は仏教と密接な関連を持つ動物なので、熱心な仏教徒の施主・野口喜一郎の発案になる装飾と思われる。

一階テラス床の、色鮮やかなモザイクタイル。

一階テラスから前庭の池。

一階テラスは日本庭園に通じているが、この先は非公開エリアなので立ち入り禁止。



現在は、北の誉酒造(株)の迎賓館として使われている。
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