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第747回・旧日本セルロイド人造絹糸技師宿舎(ダイセル異人館)

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前回紹介した近代和風建築の山本家住宅と同じ兵庫県姫路市網干区にある、瀟洒な明治末期の木造洋館・ダイセル異人館。山本家住宅と同様、姫路市指定都市景観重要建築物であると同時に、経済産業省の近代化遺産にも認定されている。

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ダイセル異人館は、現在のダイセル化学工業(株)の前身のひとつである、日本セルロイド人造絹糸が明治41年(1908)に設立され、現在の姫路市網干区新在家の埋め立て地に工場が建設された際、招聘した外国人技師のための宿舎として建てられた洋館群である。現在そのうち少なくとも3棟が現存、2棟が都市景観重要建築物の指定を受けている。

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設計は大阪の初代通天閣のなどの設計で知られ、神戸を拠点に設計活動を行っていた建築家・設楽貞雄(1864~1943)による。同氏の設計作品では兵庫県指定文化財の旧西尾家住宅(大正9年)や、大阪市西区の長瀬産業本社旧館(昭和3年)が現存する。

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また神戸市垂水区塩屋にある旧後藤家住宅も、設楽貞雄の事務所が設計を手掛けたとされている。上記3件は当ブログでいずれも既に紹介済みなので、本記事と併せてご参照頂きたい。

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複雑な形の屋根や張り出した一階のベランダなど、変化に富んだ外観。

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一階のベランダには天窓が開けられており、居室に太陽光がベランダで遮られることなく入るような工夫が施されているが、後年の改造によるものと思われる。

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現存する3棟のうち、写真の緑色の建物がダイセル異人館の名で公開されている。
資料館となっている内部はダイセル化学工業の受付で記帳手続のみ行えば、無料で見学できる。

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玄関を入ってすぐの位置にある、階段ホールを兼ねた居室。

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1階には3箇所に暖炉が設けられているが、煉瓦積みで最も立派な暖炉を備えているこの部屋は、応接や団欒などに用いる、この館の中心となる空間と思われる。

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戦時中は陸軍監督官室として使われていたという歴史もあるこの館では現在、ダイセル化学工業の歴史や、同社のかつての主力製品であったセルロイドの製品が展示されている。

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明治時代の洋館としては簡素な造りの2階階段ホール。

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2階にも、簡素な意匠の暖炉が2箇所に設けられている。暖炉の意匠は1階広間を除き、残りはすべて同一。

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セルロイドの材料となる、樟脳の原料であるクスノキのプランテーションを台湾に有していたことから、戦前は日本が生産量世界一を誇ったセルロイド製品。展示品のうち、写真背後に写っているセルロイド製の黒いキューピー人形は、全国的にも数体しか現存しない希少なもの。

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アールヌーボー風の曲線を取り入れた玄関扉の額縁。

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同じくアールヌーボー風デザインで、円形に焚口を切った1階広間の暖炉。

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直線を強調したモダンなデザインの階段親柱。
アールヌーボーやセセッションなど、明治末期の洋館としては当時最新のデザイン傾向が随所に取り入れられている。

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ダイセル異人館と全く同一意匠の洋館がもう1棟、隣接して建っている。こちらは衣掛クラブと名付けられ、会社の迎賓館の一部として今も現役で使われている。敷地内には創建当時植えられたというユーカリの木(写真左端)を始め、外国人技師の宿舎として整備された当初の雰囲気が周辺環境も含めて残されている。

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異人館群が当初の用途で使われた期間は短かった。日本セルロイド人造絹糸は操業当初不良品の連続であったが、招聘した外国人技師はいずれも技量不足から数年で解雇され帰国、結局日本人技師が自力で問題を解決したという。

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衣掛クラブは敷地内には立入出来ないので、生垣越しに撮った全景。創建当初は異人館群のある敷地が、未だ埋め立て地の縁に当たっていたことから、異人館のベランダからは瀬戸内海が一望できたという。

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切妻部分の上部にもアールヌーボー風の曲線をもった妻飾りが見られる。

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外国人技師の宿舎としての役目を終えた後、迎賓館として使われることとなったこの建物では、戦後間もない昭和24年にノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士が講演で同社を訪問した際、接待所として使われている。

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都市景観重要建築物の指定対象外であるが、上記2棟に隣接して平屋建ての洋館も1棟現存する。十数年前に筆者が初めて見学のため訪問した際はもう1棟あったが、こちらは現存していないように思われる。

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下見板を縦に貼った外壁など共通点が見られるところから、同じく設楽貞雄の設計と思われるが詳細は不詳である。

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明治期の産業施設において、外国人技師用の宿舎として建てられた洋館は全国各地に多くの事例が存在し、現存するものも多いが、意匠性の高さではダイセル異人館の洋館群は際立った存在と言える。

(3/11 追記)

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15年前の平成11年に、ダイセル異人館を初めて訪問したときの写真があったのでスキャナーで取り込んでみた。

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このときは非公開の衣掛クラブにも外観だけの見学という前提で敷地内に立入を許され、写真に収めていた。
緑色の棟と比較すると、屋根に明り取りの天窓が無い他、玄関扉の形も異なる。

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大きなベランダを軒深く差し出した外観は、同時期に建てられた神戸舞子浜の旧武藤山治邸(明治40年)に少し似ている。この館でもかつては旧武藤邸と同様、ベランダから瀬戸内海を一望できたのだろう。

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資料館となっている棟は、現在はきれいに補修されているが、15年前は少々老朽が目立っていた。

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現存しないと思っていた平屋建ての残り1棟。本記事では現存しないと書いたが、今回の再訪に際しては、この建物があった場所には立ち入っていないように思われる。ひょっとしたら今も健在なのかも知れない。
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